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ドライブストーリー

vol.2 ひとりドライブで蘇る、セピア色の思い出

川にかかる橋を渡り舗装された道から凸凹道の土手道にそれ、細い坂道を自転車で駆け下りる。再び舗装された道に出て、信号待ち。赤から青に変わったと同時に横断歩道を渡り、田園風景のなかを自転車で駆け抜けた。

いつもの風景、いつもの夕暮れ時。

田園風景が終わると段々と建物が増えていく。小学校や大型スーパーマーケット、ガソリンスタンドにコンビニエンスストア。

昔からあるもの、新しく出来たものが入り混じった風景は、馴染んでいるようで、どこか違和感があるような気もしたけど、オトナになる過程のなかでは、振り返って考える何かはそこには無かった。

「ごめん! 待った?」

自転車を沿道にとめてパン屋のウインドウに目をやったとき、髪の毛を結いながらパタパタと駆け寄る足音とともにカノジョの声が聞こえた。

駅近くの商店街にあるパン屋がカノジョのアルバイト先だった。商店街はところどころシャッターが閉められっぱなしになった店もあったが、カノジョが働くパン屋は明るくにぎわっていた。

僕は自転車を押し、ふたりは並んで歩きながら今日の出来事を話した。商店街から離れると、カノジョを自転車の後ろに乗せ、それとなく会話の続きがはじまる。

いつもの風景、いつもの夕暮れ時だった。

 

しばらくして僕は東京の大学へ進学した。カノジョは地元の大学へ進学した。進学、環境の変化、遠距離が、ふたりの間をゆっくりと自然に引き離していった。

いや、正確に言えば、僕に原因があった。

当時はいまのように携帯電話があるわけでもなく、手紙がきても筆不精の僕は返事をするわけでもなく、東京での学生生活と、アルバイトに僕は夢中で、忙しかった。

変わらない風景、変わらないカノジョから遠ざかってしまった。

 

最後に会ったのは、ふたりが連絡を取り合わなくなって数年が過ぎたときに開かれた同窓会だった。

あどけない笑顔を見せていたカノジョはすっかりオトナの女性に変わっていた。童顔の顔は僕が覚えている雰囲気は残していたけれど、お化粧した横顔も、装いも、使っている香水も僕の知るカノジョでは無かった。

「来月、彼がアメリカに転勤になる前に結婚式をあげるんだって」

高校時代。僕とカノジョのコトを知っているオンナの友人が僕の耳元でそうささやいた。

・・・結婚、アメリカ。

僕は頭の中で何度か繰り返してつぶやいた。そして顔も知らない男性にワガママにも嫉妬した。

僕のなかでのカノジョは、パン屋で働き、自転車で迎えに行くとあどけない笑顔を見せてくれる女のコだった。それは永遠に変わらないものとして僕のなかにはあった。

「元気だった?」

同窓会がまもなくお開きになりかけたころ、カノジョが僕に近づいて声をかけてきた。

「そっちも元気だった?」

「うん」。

「結婚するんだって?」

「そうなの。ちょっと早い気もするんだけど、」

「ダンナが転勤するから早まったって聞いたよ」

“ダンナ”という単語を少し強めに発音した。カノジョは少し頬を紅潮させながら、

「そうなの、やっと留学経験が役立つかな」

カノジョが留学していたことは初耳だった。

「あの、あのときね・・・。ちょっと思い立って1年間、留学したの」

「あのとき?」

「失恋きっかけって言えばいいのかな?」

カノジョは僕から視線をそらした後、軽く笑って言った。

変わらないだろうと思っていたカノジョは、僕との関係を清算して、次のステップへかろやかにコマを進めていた。

僕はひとり取り残された気分になった。

生活環境が変わり、オトナになったと思っていたのは自分だけで、地に足がついた生活のなかで確実にオトナの階段をのぼっていたのはカノジョのほうだった。

いい加減でコドモだった自分のあさはかな考えと行動に打ちのめされ、僕は改めてオトナになったカノジョに振られた気持ちになった。

 

あれからまたずいぶんと月日が流れた。

ときおりひとりでクルマを走らせていると、ふと田園風景が車窓に広がることがある。季節問わず、田園風景を目にするとあの頃のことを思い出す。思い出そうとして思い出すのではなく、セピア色にぼやけていた思い出が、田園風景に触発されて色鮮やかに蘇った。

 

カノジョを自転車の後ろに乗せて田園風景を走った日々。

当時は簡単に手放してしまったけど、あの時間は、2度と手に入れることが出来ない至極、幸せな時間だったことに、オトナになった僕はようやく気がついた。

Story by T・T
Text by Yuuki Masa
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