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ドライブストーリー

vol.3 カノジョの十八番。

「どうしよう、カレが怪我したって」
 携帯電話を持つカノジョの手が震えていた。いまにも雪がふりだしそうな師走の時期。
新しく出来たカフェにカノジョのクルマで訪れてメニューを眺めていたときだった。
 電話の相手はカノジョのカレの友人からだった。カレはスキー合宿で雪山に行っていた。

「行かなくちゃ、行かなくちゃ」。
 電話を切ると整理出来ていない頭でカノジョは呪文のように何度も何度もつぶやいた。

「まず落ち着いて。場所は?」
「長野県。どうしよう、どうしよう」。
 わたしたちがいる場所から長野県まで300km近くある。
カノジョの自宅にいったん戻るにしてもクルマで約1時間・・・。
「ともかく、いったん家に・・・」と提案する前にカノジョはクルマの鍵を握り締めてカフェを出た。
わたしもあとを続く。
店員が少し歩みよったが、カノジョの鬼気迫る表情に何かを悟ったのか心配そうに見送ってくれた。

 カノジョは運転席に座りエンジンをかけ、アクセルを強引に踏んだと思いきや急にブレーキをかけた。視点さえ定まっていない。わたしは力強くカノジョの左肩をつかみ制止した。
「アンタまで事故起こしたらどうするの!」
 それはカノジョと過ごした10年間で発したことが無い厳しい口調だった。
なかば運転席から引きずり出すようにしてカノジョを助手席に座らせた。
「運転、替わる」。

 今日の予定は、新しいカフェでカフェごはんを楽しんで、そのあとは映画を見る予定だった。
それがいま、300km先にあるカレが運ばれた病院にむかっている。

 カノジョとは中学校からの付き合いだった。昔から好奇心旺盛で冗談が好きで、土壇場は強いように思っていたけれど、さすがに今回はその粘り強さが発揮出来ないようだった。

 冬は日が落ちるのが早い。辺りはどんどん暗闇に包まれていった。私にとっても辛いドライブだった。300kmもの距離を走ったことが無かったし雪道を走る自信も無かった。
何よりカノジョのカレの容態は・・・。

 だんだん周囲の寒さが車内にも伝わってきた。
高速道路を降りると道には雪は積もっていなかったが沿道には雪が積もっている。
もし、道が凍結していたらどうしよう・・・と、不安でカラダ中がいっぱいになった。
 ヘッドライトの明かりと薄暗い外灯を頼りに走る。スピードはぐっと落とした。

しかしその直後。「あっ」と思った瞬間、クルマは右旋回でまわりだした。
やはり道は凍結していたのだ。
一回転、二回転。スローモーションのように思えた。
クルマがとまったとき、対向車線で反対向きになっていた。
対向車線にクルマがいなかったことと、意外に道幅が広かったおかげでどこにもぶつからずに済んだ。

「あ、危なかったね」
 ずっとうつむいて泣いていたカノジョが声を発した。
「・・・無傷?」
「うん。でも慎重に戻って。いま、反対車線で反対向きになっているから」

 心臓をつかまれるような緊張感から抜け出せないまま、私はしごく慎重にもとの車線にもどり、コンビニエンスストアの駐車場に一時停車をした。
 まだ心臓がばくばくと波をうっている。

 そのときだった。カノジョの携帯電話が鳴った。
電話を受けるとぱっとカノジョの顔が明るくなる。
電話の主は大怪我をしたはずのカレシからだった。

「足の骨は折れたみたいだけど、大丈夫だって」
 電話を切り、わたしと目が合うとカノジョがいった。
「ほんとに、ほんとうに大丈夫なのね!」
「うん・・・。で、病院にも来なくていいっていうんだけど・・・どうしようっか」

 数秒、カノジョと見つめ合ったまま沈黙。こんどは私の頭が整理できなくなる。
目指すスキー場まであと10km弱。
「あの、病院がね、街中のほうで病院まではまだけっこう距離があるんだよね。どうしようっか・・・」

 クルマを降りると夜空から大きなボタン雪が落ちてきた。次から次へと舞いおちる。
このまま積もったら運転する自信はまったく無い。
「お腹すいたね」
 わたしの不安をよそにカノジョが言った。
 カレが無事だったという安堵と、大騒ぎしたあとの照れくささと、いま置かれた私たちの状況が急に可笑しくなったらしく、カノジョはプッとふきだした。
「まったく・・・、どうやって帰るの、わたしたち」
「なんとかなるって」

 そう、これだ。
やっぱりカノジョは土壇場を楽しむユウジンだった。
周囲を振り回しながらも色濃い思い出をつくっていくのがカノジョの十八番だ。

Text by Yuuki Masa

※写真はイメージです。本文とは関係ありません。

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